相続法はどう変わったの?
2018年(平成30年)、超高齢社会という現代の社会経済に対応するため、相続法が大きく改正されました。
主要な改正点としては、次のものがあります。
①配偶者居住権の新設
②婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置
③預貯金の払戻制度の創設
④自筆証書遺言の方式緩和と法務局における保管制度の創設
⑤遺留分制度の見直し
⑥特別寄与制度の創設
ここでは、主要な改正点のうちでも特に重要な、①配偶者居住権の新設と③預貯金の払戻制度の創設を中心に取り上げます(なお、④と⑤については、「遺言書の種類と作成方法」、「遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)」で取り上げます)。
①について
被相続人の配偶者が、相続の対象となる建物に相続開始時に居住していた場合、その居住建物の所有権を相続しないときでも、「配偶者居住権」を取得すれば、終身又は一定期間、その建物を無償で居住することができるようになります。
具体例を通して考えてみましょう。
相続人が妻と子どもの2人で、遺産が自宅(2000万円)及び預貯金(3000万円)だった場合、相続分は「妻:子ども=1:1(妻:2500万円、子ども:2500万円)」となります。
改正前の制度であれば、配偶者が自宅を相続した場合、配偶者は現金の相続がわずかしか受けられないため、住む場所はあるが生活費が不足するという状況が起こっていました。
今回の改正により、配偶者に配偶者居住権が認められ、終身又は一定期間、自宅での居住を継続しながら、その他の財産も取得できるようになりました。上記の例でいえば、妻が、配偶者居住権(1000万円)と預貯金1500万円を相続し、子どもが負担付きの建物所有権(1000万円)と預貯金1500万円を相続するという分割方法も可能となります。
この配偶者居住権は、遺産分割協議や遺贈、審判などで認められる必要があります。もっとも、仮に配偶者居住権が認められなくても、配偶者は相続開始から遺産分割協議の成立まで短期的な居住権(配偶者短期居住権)が認められるため、一定期間はそのまま暮らすことができます。
この制度は、2020年(令和2年)4月1日に施行されます。
②について
婚姻期間が20年以上である夫婦間で居住用不動産(自宅又はその敷地)の遺贈又は贈与があった場合、原則として、遺産分割における配偶者の取り分が増えることとなります。これにより、配偶者はより多くの財産を取得することができ、配偶者の生活を保護します。
この制度は、2019年(令和元年)7月1日に施行されます。
③について
被相続人の預貯金が遺産分割の対象となる場合、各相続人は、遺産分割が終わる前でも一定の範囲で預貯金の払い戻しを受けることができるようになります。
改正前の制度だと、遺産分割が終了するまでの間は、相続人単独では預貯金を払い戻すことができませんでした。しかし、そうすると生活費や葬儀費用などは別途用意しなければなくなり、特定の相続人に大きな負担が生じていました。
今回の改正により、家庭裁判所の判断がなくても、一定の範囲内で単独で預貯金を引き出すことができるようになりました。これにより相続人の負担を軽くすることができます。
この制度は、2019年(令和元年)7月1日に施行されます。
⑥について
相続人以外の被相続人の親族(特別寄与者)が無償で被相続人の療養看護等を行った場合、相続人に対して金銭を請求できるようになります。
典型例としては、被相続人の息子の妻が被相続人を介護していたような場合です。このような者は被相続人の親族にあたりますが、相続権を有していないため、被相続人が遺言により遺贈をしない限り、相続財産を取得することはできません。
そこで、実質的公平を図って特別寄与者を保護するため、特別寄与者は相続人に対して一定の金銭を請求することができます。
この制度は、2019年(令和元年)7月1日に施行されます。